雪崩におけるヒューマンファクターについて

ちょっとした方位、斜度の変化で雪崩れます

カナダでは年平均14名の方が雪崩の事故で命を落としています。
そして、雪崩事故の90%は自然発生ではなく、自分らのパーティーが引き起こした雪崩です。つまり立ち入らなければ雪崩は起きなかったが、滑るためにエリアに入ったので積雪内でのバランスが崩れ、雪崩が起きたってことです。

雪崩事故に会いたくなければ雪山に行かなければいいです。ただそれでは人生つまらない。No Powder, No lifeなわけです。

雪崩に注意しながら山に入ればいい、結論は簡単ですが雪崩の予測はま~難しい。難しいですが、少しでも敵を知らなければ勝つことはできません。欲しがりません勝つまでは by 大日本帝国。

雪崩事故については色々な文献がでていますが、どんな人が雪崩の犠牲になりやすいかというと

1. 20代の男性
2. 山岳スキーヤー/ボーダー (最近はモービラー)
3. 1-3月の間で雪崩事故の73%が起きる(カナダにおいて)
4. 正午から2時のあいだ

まずこれらを避ける事が大切です。
つまり20台の女性とバックカントリーに行き、正午から2時はお茶タイム、1-3月は軽めでのがいいようですね。
というのは冗談で、これらプラス積雪構造を見極めて自分の行動をたてて行くわけですが、どうしても判断が鈍ることが多々あります。それが”ザ・ヒューマンファクター”。
わかっちゃいるけど辞められない、って言うあれです。

雪庇踏み抜きからの雪崩
男性グループならではのイケイケ状態

私も40代にもなって飲みすぎて吐いた時、便器に向かって、俺はもう飲まない。。もう飲まないよ、明日の夜までは。って飲むんかーい、みたいな事多々ありますからね。わかっているのです。でも辞められない。

わかってない(無知)のまま事故に遭う人もいます。これはしょうがないですね。無知ですから。ただ、せっかく勉強して、いろいろな知識を得て、近々の積雪状況もわかっているのに、しっかりとした判断ができない。これは避けるべき状況です。

では、どんな状況でヒューマンファクターによる間違った意思決定が起きるのでしょうか? アメリカ(だっけ?)の雪崩学者が提唱したF.A.C.E.T.S(ファセットとは雪崩のもとになる弱層をよく作る雪の結晶のこと)という頭文字から学んでいきましょう。

Familiarity 慣れ親しんだ場所
頻繁に行く場所ではリスクのある判断をしがちです。
何回も行ったことあるけど雪崩を見たことない。いつも大丈夫ってやつですね。
全く同じ積雪は二度と存在しないですので毎回の適正な判断を忘れずに。

Acceptance 見栄、虚栄
他人によく見せよう、ひよった意見をいいたくない、カッコつけたい、
などの心境が絡むと判断が鈍ります。特に男性だけのグループにありがちな状況です。嫌な感じだけど、自分からはいいたくないって言う、あれです。

Consistency 一貫性
柔軟性がないという、悪い意味での一貫性です。ここに行くと決めたら他の選択肢を見ることをせずにひたすら突き進んでしまう。最初に決めたことに従って行動するほうが人間楽なので、この柔軟性がない状態には陥りやすく、結果誤った意思決定となる可能性があります。

Experts 経験者からの意見
これはむずい問題。
自分より経験のある人が判断を下した場合通常それに従っちゃいますよね?だって自分より経験がある人がそういうんだから。ただ経験がない人から見ると、誰がしっかりとした経験を持っているかなんか判断できません。ポイントは何年バックカントリーをやってようが、正しい知識があって毎回の意思決定に理由を持って行動していない限り、それは経験には入らないという事です。10年やってようが20年やってようが、適当に山に入っていて何もないのはただラッキーなだけです。
そんな時はリーダーになんでここは大丈夫なんですか?(もしくはその逆)、みたいな質問をして明確な回答がな場合は疑いましょう(笑)

Tracks / Scarcity 誰かの足跡
誰かの足跡が既についていれば、なんか安心ですよね?
でもその足跡どんな人が付けたんですか?
慣れてくると、フォローしている足跡が信頼するに足りるかは、特に登りになると直ぐわかってきますが、最初のうちは注意しましょう。
また、他の人より先に行こうとして、焦るのも判断を狂わす一因です。

Social Facilitation 他人の目
他のグループがいる場合、もしくは世間に自分の存在を知らせたい(フェイスブックやインスタ、GoProなど)場合に、自分のスキル以上の事をやりがちのようです。
これは、2グループいた場合、スキルと経験があるグループのほうがいいカッコしたがる傾向にあるようです。ガイドさんなんかも注意ですね。

私もガイドですけど、自分のグループは滑らなかったけど、一般の人達は滑ったという状況のほうが実際多いです。でもノープロ。要はお客さんが”ガイドさんの判断は正しい”と信頼を得ているかどうかの問題なので、お客さんは納得される筈。でも時にはお客さんから文句がでるかも知れませんがそれは無視、だって知識と経験に基づく自分の判断は正しい(はず)ですから。
ただ、自分は滑らない判断をしたが、別の人が滑って問題なかった場合、自分の判断に立ち返るのは必要なプロセスと考えます。だって雪崩なかったという事実はありますからね。ただラッキーだったのか、こちらの判断が保守的過ぎたのか?

ということで、長々と書いてきましたが、ただでさえ不確定要素が多い雪山。せっかくした自分の正しい判断を、上記のFACETSによって変な方向に持っていかないように、絶えず自分を律する必要があります。

最後に一つ重要なのは、スキーガイドとしては与えられた条件の中で安全マージンを取りながらも一番おいしいところを滑ってもらう、これが我々の仕事です。滑らない理由を見つけてきて緩斜面ばっか滑る、一見安全に1日を終えているようですが、これではガイドとしては微妙。

雪崩研究者は、滑らない理由を探す
ガイドは、滑る理由を探す

だからガイドは難しいんですね。

明日から2週間キャットスキーのガイディング。しかも1週間で50cmほどは降りそう、雪面には表面霜、60-80cm下にもファセットの層、どんな意思決定をしていきましょう?

これはスキーカットをした後なのでOK